秋のカヤ刈り ~農村の文化と景観を守る~

秋のカヤ刈り ~農村の文化と景観を守る~

焼けるような日差しが過ぎ去り、少しづつ山の上の方の木々が緑から黄色、赤へと変わりつつある心地よい秋晴れ日。今日は一日、パソコンに向かって溜まっている書類の整理やネットショップに出品するための記事を書こうと思っていた。

 

そんな時に限って・・・(失敬。こんな時でも電話をかけてきてくれることに感謝しています)書類に埋もれた携帯が鳴った。

着信画面を見ると畑の師匠のヨシさんからだった。

 

大概ヨシさんから電話をくれる時は、畑の雑草が生えすぎている時や収穫が遅れた野菜を早く採るようになど、自分でも気にしているが手が回っていない畑の仕事についての催促と注意勧告がほとんどだ。

あ~川久保の畑が雑草だらけになってるしな。その注意かな、と内心思った。

 

「お~今、どこだ?」

「事務所にいますけど・・・・」

 

「暇だろう?ちょっと車でトンで来い(小菅でいう「とぶ」とは「急いでいく、走る」などで使います)。カヤ刈りの場所、教えるから。ヘリポートの下にいる。」

 

「(暇って!暇じゃないけど・・・)う、う~ん、わかりました!すぐ行きます」

と、唐突すぎる連絡を受け、車に乗り込み細い林道を抜けてヨシさんの指定した山の中腹にあるヘリポートへと向かった。

 

ヘリポートからは、大菩薩峠方面から東に延びる尾根が少し紅葉している木々と、スギ・ヒノキ、モミやツガなどの針葉樹とのコントラストがはっきりとした清々しい景色が広がっていた。

ヨシさんの軽トラの後ろに車を停めて、カヤを刈っているであろう場所へと歩いて行った。午前中から仕事をしていたのか、刈られたカヤが所々に纏まって山になっていた。

しかし、その場所にヨシさんの姿は見えなかった。

カヤに隠れて見えないのか、もっと斜面の下の方で作業をしているのか、辺りを見回しながら呼びかけてみた

「ヨシさ~~ん、来ましたよ~~~~~」

反応なし。

 

谷合に位置している小菅村なので、呼びかけた声がこだました。

独りで大声を張り上げるなんで、いつぶりだろうか。いや、一人で誰も居ないところで大声なんて張り上げるなんて、思いつかない。

 

作業してると思っていた場所とは、全くの検討違いの場所からヨシさんは、現れた。

やはり午前中から仕事をしていたのか、手にはネンキの入った少し刃こぼれした鎌を握りしめてこっちに歩いてきた。

 

「ここのカヤ、全部刈っていいぞ。おめぇ、前にカヤが欲しいって言ってたからな」

刈ったカヤの、もっともっと先までカヤの穂が揺れるのが見える。

(欲しいと言ったが、こんな広大な面積のカヤをどうやって刈るかぁ。10月忙しいしなぁやばいな)

頭の中で、いろんな助っ人の顔とイベントを立ち上げて人を集めるか、広大なカヤを目の前にして、脳みそはフル回転でこの問題について考え始めた。

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「ここと向こうのヘリポートの斜面、雪が降る前までに刈って、束ねて立てて干しておく。大変だけど、こうして刈っておけば来年またここにワラビが生えるし、カヤを畑に敷けば雑草を防げるからな。昨日も一日雑草抜きして疲れたわぁ」

 

今月はさすがに忙しくて刈れる日が無さそうだったので、雪が降るまでという猶予が出来たので、内心というか、かなりホッとした。

 

それにしても、この面積のカヤを手刈りするのは酷な仕事だ。

でも、来年のワラビの為や、来年畑で雑草取りの作業を少しでも楽にするために、今年から準備をしていかないといけないという、農作業の連続性を感じた。

日々の生活の中で、来年の4月のための仕事、夏の間の作業を少しでも楽にするために今やれる仕事を今やる。中々思いつかないが、こうして農村の風景や文化は絶え間なく受け継がれて来たようだ。

 

「(カヤ)刈らないで放っておいたら、みっともないだろ~」

穂が風に揺れてたなびく風景が農村の草原らしいと思う人もいるだろうが、ここはそうゆう場所じゃない。このカヤ場はしっかり管理して、毎年カヤを刈っている管理されたいわゆるカヤを育てている畑なのだ。

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ただ、ヨシさんはこの2年位でカヤ刈りの時にイノシシが掘り返した穴に落ちたり、鎌で手を切ったりとツいてないと言っていた。年々畑も小さくしているから、カヤを刈る量も少なくてよくなったそうだ。

カヤを刈らなくなれば、ワラビは採れなくなり、雑木が入って山にもどる。手入れが行き届いていない山は、農山村の景色からは程遠くなる。つまり、みっともなくなる。

 

ヨシさんがいつまでここのカヤ刈りが続けられるか、そして、ヨシさんの次はだれがこのカヤ場の管理を行うのか、明確な答えなんて分からない。

けど、今の自分たちで出来るコトは「今年は自分たちでカヤを刈る、そして少しでも技術と経験を継承する」ということ。

 

 

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